愛着障害って聞くけど、具体的には分からない…
愛着障害って保護者の子育ての仕方が悪いんだよね?
このように思っている方、いらっしゃいますでしょうか?
障害の中でもあまり認知度の高くない愛着障害
これについて今回はお話ししたいと思います。
今回の記事を読めば、
- 愛着障害は保護者の責任によるものとは限らない
- 愛着障害と発達障害を見分けることは難しい
ということについて理解できます。
今回参考にしたのはこの本です。
そもそも「愛着」とは?
愛着=アタッチメント、とも呼ばれ、
主に乳幼児期に養育者との間で作られる基本的な信頼関係
のことです。
(例)
子ども 不快な時に泣く
養育者 すぐに応答する
↑
このやりとりを繰り返し、愛着(アタッチメント)が形成される
愛着が形成されると
情緒の安定(安全基地の獲得)→善悪の判断の基準ができる
→探索行動が始まり、主体性や好奇心が発達する
→言語、コミュニケーションの能力が発達する
→心の柔軟性が高まる
とされています。
愛着障害とは
愛着障害とは
反応性アタッチメント障害
脱抑制性対人交流障害
の2つから成る障害です。
反応性アタッチメント障害
一見すると「心が閉じこもっている」と感じられる子どもです。
愛着(アタッチメント)の形成で失敗体験を重ねた結果、
新しい人間関係を拒否するようになったと考えられています。
診断基準は次の項目です。
- 養育者に対して、苦痛な時でも安楽を求めない、あるいは反応しない。
- 他者に対しての働きかけが少なく、関わろうともしない。
- ネグレクト、養育者の変更が複数回ある。
- ASDの基準を満たさない。
- 少なくとも9ヶ月以上の発達年齢。
- 5歳以前に課題が明らかになっている。
脱抑制性対人交流障害
一見すると、人見知りしない子どもです。
養育者と愛着(アタッチメント)の形成がうまくいかず、
信頼できる人とできない人の区別がうまくできない状態ではないか
と考えられています。
診断基準は次の項目です。
- 知らない大人に近づくことに抵抗が少ない。
- 年相応ではない過度に馴れ馴れしい様子がある。
- 養育者を振り返る行動が少ない。
- ネグレクト、養育者の変更が複数回ある。
- ADHDの診断基準は満たさない。
- 少なくとも9ヶ月以上ほ発達年齢。
- 5歳以前に課題が明らかになっている。
愛着障害は学校で最も誤解の多い障害
愛着障害、という言葉自体は学校の中に浸透しつつあります。
ですが、誤解が非常に多いです。
愛着障害は保護者のせい?
愛着障害=保護者の愛情が無いせい
正直、こういうイメージが広まっていると感じます。
ですが、以下の点から
そのイメージが間違っていると指摘されています。
- 愛情を込めて育てても、愛着が形成されない事例が報告されている。
- 愛着の現象についてはまだ研究中の部分が大きい。
- 検証の結果、日本には反応性アタッチメント障害の子どもはかなり少ないと考えられている。
こういった点から、
愛着障害の責任を安易に保護者に求めないよう、注意が必要
です。
愛着(アタッチメント)が不安定=二次障害?
これも間違いです。
愛着の形成が不安定でも社会適応できている人はいます。
なぜそう言えるのか?
愛着障害にもASDと同様に「スペクトラム」という発想が取り入れられています。
※ASDについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
スペクトラム=連続体、という意味で
この場合、愛着障害の実態にはグラデーションがある、ということです。
このスペクトラムを踏まえ、ある検証が行われました。
- 愛着(アタッチメント)の有無について分類する(ストレンジシチュエーション法)。
- その分類に基づいて、それぞれが適応行動を取れるか分析する。
その結果は以下です。
レベル | 実態 |
1(安定型) | 愛着形成アリ。適応行動もアリ。 |
2(不安定型A) | 愛着は不安定。適応行動が取れる。 |
3(不安定型B) | 愛着は不安定で、特異な行動が見られる。適応行動は取れる。 |
4(安全基地の歪み) | 愛着は不安定。過服従、無鉄砲、攻撃性などが見られる。 |
5(医学診断レベル) | 愛着は不安定。対人関係全般に機能不全を起こしている。 |
この結果より、愛着が不安定=二次障害ではない、と言えるわけです。
愛着障害と発達障害
個人的にはこれが一番大事な点だと思っています。
愛着障害と発達障害は特徴が似ている
ということです。
このため、
発達障害を愛着障害として誤認する
というケースが少なからずあるんです。
そうするとどうなるか?
愛着障害と発達障害では必要になる対応が全然違います。
結果、酷い誤学習による二次障害が起きてしまうことがあるんです…。
それを防ぐために、両者の共通点、違いについて知る必要があります。
愛着障害とASD
共通点
不安感が強い
ということです。
ともに、「母子分離不安」の症状が現れます。
その他の爪噛み等の特徴的な行動も似ており、
「愛着障害と思ったら、まずはASDを考えて」
とも言われるくらいです。
相違点
同じ不安感でもその理由が違います。
ASD …見通しがもてない、感覚過敏がある
愛着障害…安全基地がない、孤独
ですので同じ症状でも対応が違ってくるのです。
ASDの特性がアタッチメントの形成を難しくさせる
ASDの特性がアタッチメントの形成を難しくさせる
つまり、ASD→ASD+愛着障害、になることもあります。
(例)
触覚過敏がある
→安心感を与えるはずのスキンシップが本人にとって不快。アタッチメントが形成されないことも。
人への興味が低い
→養育者への関心も薄いため、「可愛くない」と思われて関わり自体が減ってしまうことも。
愛着障害とASDとの見分け方
これはとても難しいことなので、あくまで参考までに、ということですが、
端的に示すと以下の点から両者を見分けることができます。
- こだわり行動がある =ASD(愛着障害では少ない)
- カースト(上下関係)を意識した行動がある=愛着障害(ASDでは少ない)
カーストを意識した行動とは、次のようなものです。
心の安全基地が無く、不安な状態
↓
集団の中で振る舞いを間違えると危険、と判断する
↓
- カースト上位、特に「リーダーの下」につくことにこだわる
- 自分より下と思った人には反抗されないように威嚇し始める(いじめ行動など)
愛着障害とADHD
共通点
- 愛着障害の意欲が低下している状態と、ADHDの不注意状態が似ている
- ともに衝動性が強い
ADHDの特性がアタッチメントの形成を難しくさせる
ADHDの特性が愛着障害の引き金となり、
ADHD→ADHD+愛着障害となることがあります。
(例)
多動性が高い
→危険な行動が多く、養育者が疲弊してネグレクトにつながる
多動性、不注意、衝動性など、特性が強い
→特性のせいで怒られることが多く、養育者を「いつも怒っている人」と誤認してしまう。
愛着障害とADHDの見分け方
これについては比較的はっきりと指標が出されています。
ADHD =不注意症状が常に見られる
愛着障害=一人で過ごすときは多動ではない。
この観点から判別することが可能です。
実際に起きた誤診例
以前私の勤めていた職場でも、愛着障害と診断が出た生徒がいました。
ただ、その子はASDの診断もある子で、なかなか判断には注意が必要な子でした。
また、よくよく確認すると
- 5歳以前に課題が明らかになっている
- カーストを意識した行動がある
- 知らない大人に近づくのに抵抗感がない
- ネグレクト、養育者の変更が複数回ある
こういった点に関して該当しておらず、
ASDからの二次障害を起こしているのか
ASD+愛着障害なのか
の判断に関して慎重を期する必要がありました。
ですが、そこへの理解が現場になく、
結果、愛着障害として子どもへの支援が行われることになりました。
そしてどうなったか、
注目行動をする→無視や阻害をせずに理解を示す→エスカレートする
家庭は障害の原因を家庭の中に求める→学校が関わることが難しくなる
といった展開になり、
その生徒は、決して社会生活をスムーズに送れるような状態ではなくなってしまいました。
特別支援のプロが集まっているハズの現場ですらこういったことが起こります。
愛着障害の判断は、慎重に慎重を重ねて議論がされるべきなんです。
まとめ
- 愛着障害が養育者のせいとは限らない。
- 愛着障害と発達障害の判別は極めて難しい。
- 特にASD+愛着障害なのか、ASDの二次障害なのか、の判断は極めてハードルが高い。
- 発達障害か、愛着障害かで対応は大きく異なる。判断は慎重に。
まだまだ研究中の分野であるため、今回の解説も年月が経つと的外れになるかもしれません。
一方、それくらい未知の内容であるので、
現場で無闇に愛着障害という言葉を使うべきではない
そう強く願います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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