普段嫌なことばかり考えて気が滅入ってしまうけど、どうしたらいいんだろう?認知行動療法でACTって聞いたけどなんだろう?こういった疑問に今回お答えしていきたいと思います。今回の記事を読めば、
- ACTとは認知行動療法の1つで、マインドフルネス等も活用しながら心を整える技法である。
- 気分のコントロールは難しいが、訓練できる。
- 訓練の具体的な方法を知る。
といったことができます。
今回参考にしたのはこの本です。
私たちの心は「感情、感覚」と「言語行動」でできている

「心が何からできているのか」これはさまざまな学問で研究されている内容です。これについて、行動分析学という学問では、以下のように考えらえています。
- こころは2つのパーツからできている
- ①感情、感覚
- ②言語行動
言語行動とは、言葉の機能のことで、言葉が意味を持ち、働くというコトです。例えば、「トイレ」という言葉でも、言い方によって「場所としてのトイレ」を指すときもあれば、「トイレに行きたい」ということを指すことがあります。このように、言葉が様々な意味を持って機能することを言語行動と言います(ちなみに言語行動は言葉のみならず、絵などを用いてその意味を機能させることも言語行動に当てはまります)。
①と②はお互い紐づいています。「怖い」という言葉には「怖いという気持ち」が込められており、「痛い」には「痛いという気持ち」や「痛いからやめてという気持ち」といった内容が込められています。逆に、気持ちを込めた言葉、「痛い(痛いからやめてという気持ち)」を使った結果、相手に気持ちが通じて行動をやめてくれた、という結果が伴い、より一層「痛い」=「痛いという気持ち」という学習が深まることがあります。このように、①と②が紐づき、関わり合うことで記憶、自己概念といった心が生まれていくのです。
言語行動は行動の結果に作用する

言語行動には様々な働きがあります。言語には意味があるので当たり前ではありますが、ここで少し確認をします。「美味しい?」と聞けばここには「(美味しいかどうかの感想を教えて)」といった、相手の行動を特定の行動に導く働きが発生します。これを「マンド」と言います。他にも、「ありがとう」と言えば「どういたしまして」と返ってくることがほとんどです。このように決まった言葉で必ずある言葉が返ってきて、そういった行動を一般化するものを「イントラバーバル」と言います。
言語行動によって「ルール支配行動」が生まれる
何が言いたいかと言うと、言語行動により、話し手が聞き手を操作したり、逆のケースでは、聞き手のリアクションによって聞き手が話してを操作することがある、ということです。その中で、特定のルールを示す言語行動(タクト)に乗って行動を維持、支配すること、これを「ルール支配行動」と言います。
(例)「廊下は走ってはいけない」→「走らない」→賞賛され、次の行動も「走らない」に強化される
ちなみにこの逆が随伴性形成行動と言います。
(例)走れそうな廊下がある→走ってみた→気持ちよかった、あるいは怒られた、で次の行動が決まる
ルール支配行動のダークサイド
言葉にはライトサイドとダークサイドがあります。ですので、このルール支配行動にもダークサイドが存在します。それは以下のようなものです。
- 他者(ルールを提示するもの)への依存
- 環境への敏感さの欠如
- 同じミスを繰り返しやすくなる
- 問題行動を強化するケースもある
ルール支配行動には、自己概念から生まれる「自己ルール支配行動」もある
過去の行動、経験から自分で自分にルールを提示し、それに基づいて行動してしまうことを「自己ルール支配行動」と言います。
- 「A型は几帳面」と言われる→そう思い込んで行動する
- 「B型は大雑把」と言われる→そう思い込んで片付けなんかしなくていいと感じるようになる
さらに、自己ルール支配行動には「体験の回避」という性質もあります。自分の心の中の辛い私的出来事を避けるために、それを感じないで済むような行動を選択する、ということです。
(例)友達になりたいけど話すのが不安→「自分から話をしない」という自己ルールをつくる
私たちは心の中で「話し手」でも「聞き手」でもある

私たちは言葉を使って頭の中で思考を常に巡らしています。その中で、時には私たちは「話し手」であり、時にはその言葉の「聞き手」でもあります。
私たちは最高の話し手でも、最高の聞き手でもない
私たちは頭の中で感じたこと、思いついたことについて、絶え間なく会話を行います。ですが、私たちは果たして、正確に話し、正確に聞き取ることができているのでしょうか。実はこれが難しいのです。まず、聞き手である自分は「自分が自分のことを話しているのだから、それは『すべて正しい、間違うはずがない』」という認識で聞いてしまいます。これは最高の聞き手とは言えませんね。客観的なジャッジはできないのです。これに対し、今度はその聞いた言葉に反応し、例えば話し手として自分にダメ出しをし、命令や言い訳をする、という反応をしていくことになります。客観的なジャッジに基づかない意見を話し始めるわけです。これも、最高の話し手とは言えませんね。
心の中はダークサイドに落ちやすい
言語行動にはダークサイドがあります。さらに、人間には心理的に「得と損、心理的ダメージを均等にするには得が損の2倍ないといけない」という研究結果があります。つまり、損を感じやすい心はダークサイドを伴った言語行動を心の中で行いやすく、さらに私たちは最高の話し手でも最高の聞き手でもないわけです。こういった要素から、心の中はダークサイドに落ちやすいと言えます。
ACTによってダークサイドに落ちやすい心を訓練する

ACTとは、臨床行動分析によるアプローチです。次の3つの要素から成ります。
- 感じたことをそのままにすること
- 感じたことに気づくこと
- 選ぶこと
感じたことをそのままにすること
心の中がダークサイドに落ちた時、私たちはそれを取り除きたい、感じたくない、と思いますが、そのように意識している内はむしろ意識が強く成り、ダークサイドに落ちた感情はますます増大するばかりです。ACTではそれらに抵抗せず、向き合う、ということをします。感情や思考をそのままにし、その感情の居場所を作ってあげる、そういった行為を「アクセプタンス」「ウィリングネス」と言います。また、このようにして、嫌な感情に囚われず、少し距離を置いて眺めているだけの状態になる、このための練習を「脱フージョン」と言います。「フュージョン」とは、頭の中が思考や感情でいっぱいになっていて、そこに囚われていることを指します。
感じたことに気づくこと
先ほどの「アクセプタンス」や「脱フュージョン」を練習する方法の一つが「マインドフルネス」です。マインドフルネスについてはこちらの記事でもお話ししています。ここでいうマインドフルネスとは、自分自身の心の動きに気づけるよう平穏で静かな視点を持つための練習です。すべての心の動きにオープンになり、何か感情が生じたり、何かの感覚を感じたらそれに気づきます。気づいたそれに囚われず、そのままにしておき、距離を置くことを練習していくのです。
選ぶこと
ここでは「価値の明確化」をします。自分の人生にとって、大切な人や大切なことは何か、どんなふうに生きていたいのかを明確にしていくのです。そして価値を準備したら、今度は行動に移れるように計画し、勇気を持って一歩ずつ行動していきます。認知行動療法の「行動活性化」という考え方です。
ACTにおける、人の「普通の状態」とは、苦痛を抱えている状態
ACTでは人の普通について「苦悩や苦痛を抱えている状態」と捉えています。それは前述のとおり、心はダークサイドに常に落ちやすく、また、人間は学習の過程で失敗を経てきていることがほとんであると考えているからです。
ACT、マインドフルネスのエクササイズ

まず、私たちが感情をコントロールすることの難しさに触れてみましょう。
(例)テーマ「電気イス」
あなたは今イスに座っているとします。そこにはある装置がついていて、あなたの心に直結しています。あなたが不安を感じると、その装置が即座に検知し、あなたのイスに直ちに数千ボルトの電気が流れます。数千ボルトですから、かなりの程度のやけどを負うか、もしくは最悪の事態を迎える可能性もあります。そのような状況の中、あなたが生き残るために行えることは1つだけです。それは、「不安を感じないでいる」ということだけです。あなたの心の中に少しでも不安が生じると、途端に電流が流れます。あなたは何秒くらい不安を感じずに過ごせそうですか?あなたは生き残ることができそうですか?
こう考えると実感すると思いますが、感情をコントロールする、ということは実はとても難しいのです。私たちは感情や心の中にある私的出来事をコントロールすることはうまくできず、むしろ困難なことなのです。
感じたことに気づき、そのままにするエクササイズ
「空と天気のメタファー」というエクササイズがあります。
自分の視点を遠く高く、空の上まで上げていくようイメージしてください。そして、空の上から下界を見下ろします。すると、色々な天気の変化を静かに眺めることができます。雲があなたの視点の下を流れていきます。その視点の下を流れていく雲が「感情」出会ったり「思考」であったりするわけです。それは、台風の目を伴った大きな黒い積乱雲のようなものかもしれません。その瞬間地上にいれば、それに巻き込まれ、悲しみ、苦しみ、あるいは辛さに叩きのめされるような経験をするかもしれませんが、雲よりずっと高い青空のところにいれば、私たちはそれを上の方から静かに、穏やかな状態で眺めることができるでしょう。思考や感情、感覚に苛まれることなく、安心、安全な場所からそれらを観察することができるのです。
脱フュージョンをイメージするエクササイズ
「滝のメタファー」というエクササイズがあります。
私たちが思考や感情、感覚に囚われてしまっている状態は、滝の中で流れ落ちてくる水流に晒され続けているようなものです。私たちが思考に囚われているとき、私たちは次々を現れ途切れることのない言葉の流れに晒され、打たれ続けています。次々と現れる言葉は、それが大切な言葉なのかどうかを考える間もなく、まさに次々と私たちに降りかかります。私たちは、滝の流れに晒されながら、「頑張らなきゃいけない、耐えなければならない、強くならなければならない」と歯を食いしばり、この困難に溢れた状態をなんとかしようともがいています。こんな時、私たちの心には、焦りや不安、恐怖などの感情や感覚が生じてくるかもしれません。そして、私たちが感情や感覚に囚われてしまうと、途切れることもなく打ち付ける大きな滴は、私たちの心をさらに痛めつけ、より大きな感情や感覚を引き起こしてしまうでしょう。
こんな時、私たちはどのように振る舞うことができるでしょうか?ずっと言葉の滝に歯を食いしばりながら、もがき続けることしかできないのでしょうか?いいえ、私たちは、滝にさらされ続けるのではなく、滝を眺められる場所へと移動することができます。滝から少し離れて、水流が穏やかに足元を流れる場所へと移ることができるのです。そこでは、降り落ちる流れに晒されるのではなく、穏やかに流れる水流を見て、ゆっくりと思考を眺めることができます。すると次々と降り落ちてきていた思考が、同じような思考の繰り返しであり、そんなにたくさんの思考でなかったことに気づけるかもしれません。また、私たちが滝から少し離れることで、私たちの感情を高ぶらせていた大きな滴は、大気を漂う水飛沫となって、優しく私たちを取り囲み、落ち着かせてくれるかもしれません。私たちは皆、時々、思考や感情に囚われてしまうことがあります。そんな時、私たちは、ずっと滝に晒されながらもがき続けるか、滝から少し離れたところでそれを観察し、穏やかに受け入れるのかを選ぶことができます。
選ぶこと、「活力ある行動」のための条件

ACTにおける「選ぶこと」というのは、日々の行動や方向性、指針を選ぶ、つまりは人生における「価値の明確化」です。この価値を「言葉にすること」が重要になります。価値は、以下の領域に分けて考えてると良いです。
- 人間関係
- 仕事、教育
- 自分の成長、健康
- 余暇、趣味
価値には3つの定義があります。
- 継続できること
- 毎日の生活の中でこのように振る舞いたい、と考えていることを言葉にして表しましょう。
- 基本となる心構えがあること
- 振る舞い方の基本となる心構えを表す言葉を付け加えましょう(「集中して」など)。
- 自分にとって望ましいこと
- あくまで「自分にとって」。誰か、何かのためにこうすべき、というのは価値ではないです。
価値を考える時のポイント
- 価値は自分の望みであること
- 価値はいつでもできること
- 価値にはこだわらず、忘れたら思い出す
- 価値にはいろいろあり、そして変化する
- 価値はTPOに合わせて自由に選ぶ
価値をイメージするエクササイズ
価値をイメージする「コンパスのメタファー」のエクササイズがあります。
価値はコンパス(方位磁石)のようなものです。方位磁石の針はいつも北を指しているので、私たちはそれを見ながら、向かいたい方向を知ることができます。今、私たちは「西に向かいたい」と考えているとしましょう。私たちは方位磁石を取り出して、西の方角を確認し、西に向かって歩き続けることができます。しかし、ずっと西に向かって歩き続けるのは容易なことではなく、壁に当たったり、道が曲がっていたりして真っ直ぐ進めなくなり、道をそれてしまうこともよくあります。でも、たとえ道が逸れてしまったとしても、もう一度、方位磁石で西の方角を確認すれば、西に向かい続けることができるのです。
また、西に向かい続ける中で、あそこに行きたい、あの山に登りたい、あそこで少し休憩をしたいということも出てくるでしょう。それはそれで構いません。それらの行きたいところの一つ一つは、価値に向かう人生の一つのゴールだと考えることができるでしょう。人生の途中には、色々なゴールがあるのです。そして、一つのゴールを達成したら、もう一度方位磁石で方角を確認し、自分の価値に向かう方向、たとえば西の方角に、再び足を踏み出せば良いのです。西に向かうということは、いつでもどこでも行うことができますが、一方で西に行き着くということはありません。西という方角に終わりはなく、ずっと西に向かって進み続けることになります。価値とはそのようなものです。そこに行き着くことはできません。人生の中でこんな生き方をしよう、これを大切にしようと決めた時、それが価値であり、その方向に進み続けるということなのです。
価値に向かう行動を計画する(スモールステップで)
価値に向かう行動を計画してみましょう。スモールステップで考えることが大事です。
- どんな価値について計画するかを考える
- 大切な人は誰?大切なことは何?ということを具体的に決めましょう。
- 自分の価値を言葉にする
- 1で選んだ人、ことにどんなふうに接したいですか?取り組みたいですか?を考えましょう。
- 価値に向かう行動をスモールステップで考える。
- ①すぐに達成できるゴール(毎日できそう、24時間以内にできそうな小さなこと)を作る。
- ②①を1週間くらい続けたり、数日間から数週間続けたりしたらできそうなゴールを作る。
- ③②を1〜2ヶ月続ける、もしくは数週間から数ヶ月でできそうなゴールを作る。
- ④③が行動週間になったらチャレンジしたいことをゴールにする。
ACTマトリックスを作ってみる
この画像はACTマトリックスの例です。右側が「価値に向かう」行動で、左側が「価値から離れる」行動です。上側が「五感の体験」で、下側が「心の体験」です。

このような図を用意し、まず右下の部分から始めます。ここには「価値に向かう方向で心の中で思っていること」を書きます。
(例)価値「家族に愛情を持って接したい」に対し、心「ありがとうと言いたい」と思っていることを書く
次に左下の部分です。価値に向かう行動を踏みとどまらせている、心の中の何かについて書きます。
(例)心「めんどくさい」と思っていると書く
左上には、左下の心に伴って普段行ってしまっている、価値から離れる行動について書きます。
(例)行動「スマホでゲームをする」と書く
最後、右上に、先ほど考えた「価値に向かう行動」を書きます。
これでACTマトリクスは完成です。あとはこの中からどの行動を取るか選択することです。最初から完璧にはできません。自分を客観視し、できるだけ左上の行動を減らし、右上の行動を増やせるようにしていけると良いでしょう。
まとめ
- 心は言語行動と感情が作用しあってできている。
- 心は言語行動と感情の作用により、ダークサイドに落ちやすい。
- 私たちは心の中の声を正しく聞いたり、それに正しく答えたりできない。
- ACTやマインドフルネスのエクササイズによって心を整える練習ができる。
- 大事なのは「気持ちをそのままにすること、気づくこと、行動を選ぶこと」。
- ACTマトリクスを使うと行動を整理し、改善しやすい。
私たちは心をうまく操ることができません。少しでも上手に心と向き合えるよう、日々イメージを積み重ねていきましょう。くれぐれも、リラックスして取り組み、負担のないようにやっていきましょう。
今日もお読みいただき、ありがとうございました。
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