以前お話ししたように、私はこれまで何十冊と発達障害に関する本を読みあさってきました。その中で、なかなか衝撃的かつ画期的な内容の本に出会いましたので、その内容について紹介させていただきたいと思います。今回の記事には
- 経験ではなく科学にもとづいた発達障害の対応方法を知ることができる。
- マインドフルネス等で脳に働きかける、具体的な方法について理解できる。
といったメリットがあると思います。ぜひよろしくお願いします。
名著「脳科学が解明!ASD、ADHDの『苦手』を乗り越え自己実現」
今回ご紹介したいのは「脳科学が解明!わが子に発達障害というラベルを貼らないで!ASD、ADHDの『苦手』を乗り越え自己実現」という本です。
この本、何が画期的かというと、脳科学で発達障害者の抱える困難にアプローチしているということです。「科学でアプローチなんて、当たり前じゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、実は、これまでこういった精神疾患については脳で何が起きているか分からないままに診断、治療が行われてきたという経緯があるんです。
ASD、ADHDの診断は実は科学的ではない
これらの診断、実は100年ほど前に報告された「特徴的な子どもたち」という集団をもとに分析、分類をしているだけ、ということなんです。つまり、
今の発達障害にあたるような特徴を現す子どもたちが発見される
↓
彼らの特徴をもとに「発達障害」という分類が作られる
↓
その集団の分析が行われ、治療、対処について考えが発展していく
(ただし、脳の中で何が行われているか、科学的にはアプローチされていない)
つまり、根本の原因は分からないが、対処法は発達していっているというのが現状ということなんです。
脳科学から発達障害を考える
一方で、現在の脳科学で分かっていることを活用して発達障害を分析することもできるようです。そして、それを行なっているのがこの本です。現在、脳のどこの部分でどう起こっているかが分かっている発達障害に関連する機能は、次の7つがあります。
- 注意
- 目標の選択・情報の更新・維持
- 作動記憶
- 他者の表情の理解
- 他者の思考・感情の理解
- 不安
- 反応の抑制・選択
これらについては、発達障害に関連があるとともに、脳のどの場所がどう反応しているかが明らかになっているものです。ですので、脳のその場所にどうアプローチすれば良いか、脳科学的な見地で分かる、というわけです。
脳科学的な「苦手」へのアプローチ
先ほど紹介した7つの点は、脳科学で分析が可能な、発達障害者が抱える「苦手」とも言えます。ですので、脳科学的にアプローチをしていきましょう。
「注意」について
これにはマインドフルネスが有効と考えられています。マインドフルネスとは、脳や心を整える方法の一つで、「今、この瞬間に集中する」ことを目指すものです。具体的には
- 坐禅(ざぜん)
- ボティスキャン
- 歩行瞑想(めいそう)
- マッサージ
- 筋トレ
- 塗り絵
といった方法が挙げられます。
これらについて面白いのは、特別支援学校で行われている「自立活動」に内容が似ている、という点ですね。奇しくも、科学と実践で同じような結論にたどりついているわけです。とても説得力を感じます。
目標の選択・情報の更新・維持
これについても上記のマインドフルネスが有効なようです。
作動記憶
作動記憶(ワーキングメモリー)は短時間に頭の中で情報を保持し、処理する能力のことです。これについては、知識を増やす、が有効なようです。これによって作動記憶の負荷が下がり、自由になる作動記憶が増えるそうです。
他者の表情の理解
これに関して最も有効的とされるトレーニングの一つが、注意を顔に向けさせることです。脳科学の実験結果では、発達障害者と健常者で、顔にきちんと注意が向いている時は表情の理解度は大きく変わらないという結果が出ているようです。ですので、しっかり顔を見るようにさせることが、簡単かつ効果的だと考えられます。
他者の思考・感情の理解
これに対しては「他人にとっての事実は何か」「他人がどのような感情をもっているか」を考えられるように促していくということが重要とされています。ですので、具体的には、小さなときからいろいろな場所に連れていってあげて違う立場の人や違う意見の人と接する機会をつくってあげる、といったことが効果的だと考えられます。
不安
不安という感情は、脳の扁桃体(へんとうたい)という部位が活動し過ぎることでもたらされることが分かっています。ですので、不安になったときに「扁桃体がどれくらい活動しているかを想像してみる」という方法が効果的だと言われています。不安になった際には「ああ、今扁桃体が60%くらい活動しているのかな。」などとイメージすると、冷静さを保ちやすくなるようです。
また、もう一つの方法としては認知再構築法を実践するということも有効的と言われています。
- 起こった事実
- その事実に対して反射的にどう反応したか
- 本来、どのような反応が適切だったか
- 最も良い対応はどのようなものだったか
これらを後から振り返り、ノートにまとめるというものです。これにより、自分の反応のクセを知り、不安といったような反応をコントロールすることを目指します。
反応の抑制・選択
これに関しては、年齢を重ねるにつれて自然に落ち着く傾向にあるということです。
メンタルマッチョ法について
先ほどまでは、様々な苦手への対応を脳科学的なアプローチで紹介していましたが、次は、そもそも精神的に強くなる、という方法について、これも脳科学的なアプローチで紹介したいと思います。このアプローチを、筆者はメンタルマッチョ法と呼んでいます。メンタルマッチョ法には2つのことが必要です。
- 自己肯定感を高める
- 実行機能を高くする
これらが必要となります。
自己肯定感を高める
これには7つの方法があります。
- 自分がすることは自分が決める。
- 自分の評価を自分がする。そして甘めにする。
- 感情を入れない訓練をする。
- 支援者は、失敗させない、ではなく、失敗したときにサポートしてあげることを伝える。
- 良いことを記録し、悪いことは忘れる。
- 成功の要因をしっかりつきつめる。
- がんばれば達成できる目標を設定する(スモールステップ法)。
といった方法です。
実行機能を高くする
実行機能とは、物事をやり切る力です。これを身につけるには6つの方法があります。
- 考えすぎず、行動しながら考える。そのバランスをとる。
- 自分はできる、と考える。
- 完ペキを求めない。
- 調子の波をコントロールしようとしない。
- スポーツや武道をする。
- 常識への反論をする。
これらを行うことで、やり切る力を身につけられる、とのことです。
まとめ
- これまでの発達障害へのアプローチも素晴らしいが、脳科学からのアプローチも素晴らしい。
- 脳科学でのアプローチは非常に具体的。実践しやすい。
- 個人的にはマインドフルネスや不安への対応の実践がオススメ。
実はこの本、なかなか内容が難しく少し手強かったですが、それでも脳科学的なアプローチがとても興味深く、一気に読み切ってしまいました。ぜひ皆さんも、一度手にとっていただけたら、そして活用いただけたら、と思います。
今日もお読みいただき、ありがとうございました。
コメント